── 宅建士が考える、まちの価値を高める新しい方法とは

再開発=街の価値が上がる。
そんな時代は、もう終わったのかもしれません。
2025年、中野・五反田・津田沼といった都心や近郊の街で、
高層ビルや大規模複合施設を予定していた再開発プロジェクトが次々に中止・延期・白紙になっています。
なぜ今、再開発がうまくいかないのか?
宅建士の視点から、都市づくりの課題と、これからの“まちの価値の育て方”について解説します。
■ 相次ぐ再開発の頓挫。現場で何が起きているのか?

▼ 再開発計画の最新動向(2024〜2025年)
地域 | 再開発対象 | 状況 | 主な要因 |
---|---|---|---|
東京都品川区 | 五反田TOCビル | 2024年4月:延期 | 建設費の高騰、オフィス市況の悪化 |
千葉県習志野市 | モリシア津田沼 | 2025年5月:事業一時中断 | 施工費の増加、収支採算性の悪化 |
東京都中野区 | 中野サンプラザ | 2025年6月:白紙化 | 協定解除、計画見直し要請 |
これらはすべて、「超高層+複合用途(住宅・商業・業務)」型の大型再開発という共通点を持ちます。
そしてそのどれもが、建設コストの急騰や収益の見通し悪化により、計画通りに進められなくなったのです。
■ 原因は「市場の変化」+「社会構造の転換」

以下の3つが、再開発の頓挫を加速させた大きな要因です。
地球温暖化時代の倫理的課題
建物の解体→建設によるCO₂排出は非常に大きく、再開発が気候変動の加速要因となることが問題視されつつある(出典:国連環境計画 2019)。
建設費の想定外の高騰
ゼネコン各社の見積もりは、2020年比で30〜40%増(出典:日経アーキテクチュア)
資材価格・人件費・原油価格の影響をダイレクトに受け、予算超過が続出。
人口減少とニーズの変化
ファミリー向け住宅や大型商業施設の需要は明らかに減少傾向。
単身高齢者、在宅ワーカー、共働き世帯など「暮らしのスタイル」は多様化。
■ 宅建士が提案したい、これからの「まちの価値の育て方」
街の魅力は、必ずしも「再開発=新築タワー」で生まれるとは限りません。
むしろ今、注目されているのは以下のような“再開発に頼らない”価値づくりです。
✅ 1. 既存建物のリノベーション
再生可能エネルギー導入や断熱強化、用途変更などで既存資産を活かす街づくり。
→ CO₂削減、コスト圧縮、地域の歴史継承に寄与。
✅ 2. 空き家・空き店舗の「点から面へ」活用
個人商店やシェアスペースなど、地元発の取り組みでコミュニティを育てる。
→ 高円寺、谷中、清澄白河などが好例。
✅ 3. 歩きやすい都市空間の整備(ウォーカブル)
大型ビルよりも、回遊できる路地、広場、ベンチ、カフェのある「居場所」の価値。
→ 国土交通省の“ウォーカブル推進自治体”は2023年時点で217を超える。
✅ 4. 小さく始めて、育てていく「編集型まちづくり」
“エリアの顔”を変えるのではなく、“関係性”を深めるアプローチ。
行政、事業者、市民が一体となった段階的な改善が注目されている。
■ 墨田区に学ぶ、“再開発に頼らない”まちづくり
墨田区は、再開発よりも既存資源の活用と、下町の価値継承に力を入れてきたまちです。

▼ 墨田区の現状と取り組み
- 歴史的な住宅地と町工場が混在するエリアを維持
- 小規模商店の後継支援や、空き家のリノベーション促進
- 錦糸町・押上エリアは「ウォーカブル推進地区」に指定
- 隅田川沿いの公園整備や、ソーシャルグッドな拠点(カフェ・宿泊・シェアスペース)が増加中
墨田区のまちづくりは、高層ビルを建てるよりも、日常の「暮らしの楽しさ」を深める方針。
この流れは、今後さらに求められる「持続可能な都市」の形と一致しています。
■ これからの「まちの価値」をどうつくるか?
高層ビルがなくても、魅力的な街はつくれる。
再開発に頼らないまちの価値づくりには、次のような視点が重要です。
視点 | 内容 | 墨田区の実例 |
---|---|---|
① リノベーションで価値再生 | 古い建物を活かし、環境負荷も抑える | 京島や文花地区での町家改修 |
② 小商い・地元ビジネス支援 | 住民参加型の経済循環をつくる | キラキラ橘商店街の活性化事業 |
③ 歩きやすい都市設計 | 公園や川沿いを活かした回遊性のある街に | 隅田川テラスや北十間川沿道の整備 |
④ コミュニティ拠点の点在 | 子育て・高齢者・観光をつなぐ空間 | こども食堂・地域カフェの増加 |
■ 宅建士の立場から:街を“売る”のではなく“育てる”発想へ
不動産は単なる取引対象ではなく、「人の暮らし」と「まちの未来」を支えるもの。
特に今のように再開発が進まない時代にこそ、私たち宅建士は、
- 暮らしの連続性
- 環境への配慮
- 地域とのつながり
という**“非物件的価値”**に目を向ける必要があります。
墨田区のように、小さな改善を積み重ねながら、住み続けられる街を育てていく。
それこそが、これからの「選ばれる街」の本質なのかもしれません。
【引用・出典】
- Yahoo!ニュース(2025年7月)中野サンプラザ再開発の白紙化
- 国連環境計画「Global Status Report for Buildings and Construction(2019)」
- 国立社会保障・人口問題研究所「将来人口推計(2023)」
- 日経アーキテクチュア「建築費指数2024年4月」
- 墨田区公式サイト(まちづくり基本方針・空き家利活用計画・子育て支援拠点一覧)
- 国土交通省「ウォーカブル推進自治体一覧2023」