~具体例で学ぶスムーズな相続のためのステップ~
1. はじめに
親や配偶者が亡くなったあと、残された不動産をどう引き継ぐのか。
人生の中で不動産相続を経験する機会は限られているため、「何から始めればいいかわからない」と戸惑う方も多いはずです。
このコラムでは、不動産相続の基本的な流れを、実際のケースや関連法令を交えながら、初心者にもわかりやすく解説します。
2. 不動産相続の基本的な流れ
【STEP1】相続が開始する
相続は「被相続人(亡くなった人)の死亡」により開始します(民法第882条)。
【STEP2】相続人の確認
誰が相続人になるかを確認します。
配偶者は常に相続人で、その他は以下の優先順位で決まります。
- 第1順位:子(子が死亡している場合は孫)
- 第2順位:父母・祖父母などの直系尊属
- 第3順位:兄弟姉妹(兄弟が死亡している場合はその子)
※戸籍をたどって相続人を確定するため「法定相続情報一覧図」の取得が推奨されます。
【STEP3】遺言書の有無を確認
遺言書があれば、法定相続分よりも遺言が優先されます(民法第902条)。
自筆証書遺言は家庭裁判所で「検認」手続きが必要(民法第1004条)。
【STEP4】相続財産の把握と評価
対象となる不動産や預金、借金などの資産・負債をすべて洗い出します。
不動産については「固定資産税評価証明書」「登記簿謄本」「公図」などで確認。
必要に応じて不動産鑑定士による評価を行う場合もあります。
【STEP5】相続方法の選択
相続には以下の3つの方法があります(民法第915条)。
- 単純承認:すべての財産・債務を引き継ぐ
- 限定承認:資産の範囲内で債務を引き継ぐ
- 相続放棄:一切相続しない
※相続放棄や限定承認は「相続開始を知った日から3ヶ月以内」に家庭裁判所に申述する必要があります。
【STEP6】遺産分割協議
法定相続人全員で遺産分割方法を話し合います。
分割内容が決まったら「遺産分割協議書」を作成し、署名・実印押印し印鑑証明書を添付。
【STEP7】不動産の相続登記(名義変更)
法務局で「相続登記」を行い、不動産の名義を相続人に変更します。
2024年4月以降、相続登記は「義務化」され、**3年以内に登記しないと過料(10万円以下)**が科される可能性があります(不動産登記法第76条の2)。
3. 具体的なケーススタディ
【ケース】父が亡くなり、自宅を長男が相続した場合
- 家族構成:父、母、長男、長女(全員健在)
- 遺言書:なし
- 不動産:父名義の自宅(土地・建物)
【対応の流れ】
- 相続人を確認(母・長男・長女)
- 自宅の評価額を確認(例:固定資産評価額2,500万円)
- 遺産分割協議で「長男が自宅を相続、母と長女に代償金を支払う」で合意
- 遺産分割協議書を作成し、相続登記を申請
- 相続税の申告(必要に応じて)を税理士に依頼
4. 相続税の基礎知識
相続税とは、相続や遺贈によって財産を受け取った人が支払う税金です。
■相続税がかかるかどうかの判断
相続税には「基礎控除」があり、以下の式で算出します。
3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数
たとえば、相続人が配偶者・長男・長女の3人なら
→ 3,000万円 + 600万円×3 = 4,800万円が非課税枠になります。
遺産総額がこの金額を超える場合にのみ、相続税の申告・納税が必要です。
■不動産の評価額
現金と異なり、不動産は市場価格ではなく「相続税評価額(路線価方式・倍率方式)」で算出されるため、実際の売却価格よりも低く評価されることが多いです。
この評価により、相続税がかかるかどうかが大きく変わります。
■配偶者の税額軽減
配偶者は、1億6,000万円または法定相続分のどちらか多い方まで非課税になる特例があります。
5. 相続放棄とは?
■相続放棄の概要
借金や債務が多い場合などに、「相続を一切受け取らない」という選択肢が相続放棄です。
民法第938条に基づき、相続開始を知った日から3ヶ月以内に、家庭裁判所に申述書を提出する必要があります。
■相続放棄の注意点
- 一度放棄すると撤回できません
- 相続人でなくなった扱いになるため、不動産の管理や売却もできません
- 第2順位・第3順位の相続人に権利が移るため、親族内で調整が必要
■放棄した方が良いケース
- 不動産より借金や保証債務の方が多い
- 管理不能な空き家や廃墟物件が含まれている
- 親族関係が複雑でトラブル回避を優先したいとき
6. 相続でよくあるトラブルと対処法
- 相続人間の意見がまとまらない
→弁護士や司法書士を交えた調整を検討 - 不動産を複数人で共有すると後で売却が難しくなる
→1人が相続し、他の相続人へ代償金を払う方法が有効 - 被相続人の借金が発覚
→限定承認または相続放棄を早めに判断
7. 相続はタブーではない。「生前の話し合い」が円満相続の鍵
相続にまつわる話題は、どうしても「縁起でもない」「言い出しにくい」と避けられがちです。
しかし、本当に揉めるのは“亡くなったあとに何も決まっていないケース”。遺された家族が、不動産や預金の分け方をめぐって争う…というのは決して珍しい話ではありません。
そのリスクを避けるためにも、相続については生前のうちに家族で率直に話し合うことがとても大切です。
◆ 話し合っておきたいポイント
- どの不動産を誰に相続してほしいか
- 自宅に住み続けたい人がいるか
- 借金やローンは残っているか
- 介護や看病への感謝の気持ちをどう反映させたいか
- 遺言書は作成済みか?どこに保管されているか?
◆ 生前対策でできること
- 公正証書遺言の作成
- 不動産の名義や評価額の確認
- 家族信託の活用
- 相続税の試算と対策
どんなに仲の良い家族でも、「お金と不動産」の話は、感情が絡むとトラブルになりがちです。
だからこそ、“今”がチャンスです。
「うちも、そろそろ話し合っておこうか」――その一言が、将来の安心と信頼につながります。
8. まとめ
不動産の相続は、亡くなった方の意志を大切にしながら、相続人全員が納得できる形で進めることが理想です。また生前に本人と家族で話し合って明確にしておくことでトラブルを回避できます。また相続登記の義務化など制度の変更もあるため、司法書士や税理士など専門家への早めの相談が安心につながります。
■関連法令一覧
- 民法 第882条(相続開始)
- 民法 第915条(相続の承認・放棄)
- 民法 第938条(相続放棄)
- 不動産登記法 第76条の2(相続登記の義務化)
- 相続税法 第15条~(相続税の課税)