近年、賃貸管理の現場で急増しているのが 「借主によるカスタマーハラスメント(カスハラ)」 です。
「お客様は神様だ」という誤った認識を盾に、過度な要求・理不尽なクレーム・虚偽申告を行う借主は、管理会社とオーナーの大きな負担になっています。
しかもこの問題、背景には 善管注意義務への理解不足 と、
借主保護が非常に強い日本の借家法(借地借家法) の存在があります。
「借主カスハラ」「賃貸不当要求」「善管注意義務違反」に悩む管理会社・オーナーが、今まさに直面する“構造的な課題”を、わかりやすく解説します。
増え続ける「借主カスハラ」

〜善管注意義務を無視した不当要求の実態〜**
賃借人には民法400条に基づき、
「善良な管理者として注意して使用する義務(善管注意義務)」
があります。
つまり、本来は
自分の持ち物以上に丁寧に使うことが前提。
しかし現場では、以下のような 明らかな善管注意義務違反 が、借主の“当然の権利”のように主張されることが増えています。
■実際に多い「借主カスハラ」事例
- 異物を流してトイレ詰まり→無料修理を強要
- 結露・カビを放置→建物の欠陥と決めつける
- 排水口の清掃不足で詰まり→高圧洗浄を無料で要求
- 経年劣化ではない破損→新品交換を求める
- 過失があっても「管理会社の責任」と虚偽の主張
管理会社は説明しても感情的に責められ、
「波風を立てるくらいなら無料で処理しよう…」と負担を抱え込んでしまう構図ができています。
借主カスハラを生み出す“制度的原因”

〜借家法の借主保護が過剰になっていないか?〜**
借主保護は大切ですが、現在の制度は 戦後の住宅不足の時代に作られたもの がベースです。
2020年代の賃貸市場には合わない部分も多く、以下のような“借主優位の歪み”を生んでいます。
(1)契約更新は借主が圧倒的に強い「正当事由制度」
貸主が更新拒絶・解約をするには、
非常に強い理由+立退料 が必要。
→ 借主は「追い出されない」という安心感が過度に強くなる。
→ 結果、態度がエスカレートしやすい。
(2)修繕義務の誤解が不当要求を助長
民法606条の「貸主は必要な修繕義務を負う」という条文が曲解され、
「修理は全部オーナーの義務でしょ?」
という認識が広がりがち。
しかし実際は、
借主の過失・善管注意義務違反は借主負担 が原則。
この違いが理解されていないことが、
不当要求の大きな原因になっています。
(3)原状回復ガイドラインの“誤用”
国交省ガイドラインは法令ではなく“参考基準”なのに、
「クロスの張替えは全て貸主負担」と誤解する借主が多い。
SNSの誤情報も拍車をかけています。
(4)管理会社側の権利が制度的に弱い
借主からのクレームが過剰であっても、
借主保護規定が強く、
“強く出られない”ためカスハラが助長される。
歪んだバランスのままでは、賃貸市場が持続できない

築古物件の増加、修繕費の高騰、管理人材の不足…。
賃貸経営は年々難しくなっています。
そこに 借主カスハラの増加 が重なれば、
小規模オーナーや管理会社は疲弊し、
賃貸市場全体の健全性が損なわれかねません。
これから必要なのは
“借主保護だけでなく、貸主・管理会社の保護” も両立させること**
■今後見直しを検討すべき点
- 善管注意義務違反の明確化とペナルティ
- 悪質クレーム(カスハラ)への法的対処の整備
- 過失・故意の原状回復基準をより明文化
- 管理会社スタッフを守る仕組みの構築
- 正当事由制度の現代化
- 契約書の標準化(修繕・費用負担の明確化)
借主の安心を守りながら、貸主・管理会社も守られる制度設計こそ、
持続可能な賃貸市場には欠かせません。
まとめ
借主は“神様”ではない。
賃貸契約は「対等な契約関係」です。**
賃貸トラブルの多くは、
借主が“守られて当然”と感じる構造的な背景から生まれます。
しかし、賃貸借契約は
借主・貸主が互いに義務を果たして成り立つ“対等な契約” です。
健全な賃貸市場を守るには、
過度な借主保護と不当要求(カスハラ)が引き起こす課題を直視し、
制度も運用も“現代に合わせてバランスを取り戻す”必要があります。
筆者プロフィール

今西千登瀬(いまにし ちとせ)
インテリアコーディネーター・子育て住空間コンサルタント。
40代女性の「心とからだ、暮らしにやさしいライフスタイル」をテーマに、住宅・不動産・ライフスタイル領域でコラムを執筆中。




借主の心構え






